読書感想①「日銀漂流〜試練と苦悩の四半世紀〜」 西野智彦 著 の後半(笑)

読書感想企画第①弾!

 

今回は図書館で見かけて面白そうだな〜と思って借りた「日銀漂流〜試練と苦悩の四半世紀」という本の感想を書いてみました。初の投稿からいきなりお固そうなタイトルですが(笑)。

 

ぶっちゃけ、かなり読みやすくて面白かったです。以下に本書の概要・感想・おすすめポイントを記載していきます。

 

【本書の概要】

ゼロ金利量的緩和インフレ目標、政府との共同声明、そして異次元緩和ー。異例ずくめの金融政策の背後で、いかなる議論や駆け引きが行われていたのか。何故こんな事になったのか。

1998年の日銀法施工以来、蜃気楼のような「独立性」を追い求めて、後退戦を余儀なくされてきた、松下康雄速水優福井俊彦白川方明黒田東彦の新日銀歴代総裁。その苦闘の軌跡を長期にわたる執拗な取材で詳細にドキュメントする。

         (本書、表紙カバーより)

 

今となっては当たり前のように政府・日銀が共同して物価上昇率年率2%の目標を掲げて政策を協調させながらデフレ脱却に邁進しているわけですが、今の「当たり前」というのは前日銀総裁の白川総裁の時期には頑として反対していたことも多くあります。

 

今回のレビューは本書の後半部分(白川総裁→黒田総裁)までを読んだ上での感想になるので予めご了承ください!

 

なぜ、後半だけかというと個人的に興味があったのがこの期間の日銀の政策運営だったからです(笑)

 

前半は今から読みますがさらに面白いポイントがあったら更新してきたいと思います!

 

苦難の総裁「白川方明

2008年から2013年に総裁を務めた白川総裁は任期中にリーマン・ショック」「欧州債務危機」「東日本大震災」という未曾有の危機に直面しました。

 

当然のごとく経済は大打撃を受け、この時期大幅に進行した円高は国民の家計・企業の業績を厳しいものにしました。

 

政治的からの独立性を保ちながら、可能な限りの金融緩和を行ってきた白川総裁ですがその間、政府・当時の主力経済学派(リフレ派)からの批判が凄まじく、少しずつ追加の緩和スタンスを取らざるを得なくなります。

 

外圧と独立性の間に揺れながら最終的に白川総裁を挫折させたものは民意だったようです。2012年末の衆議院選挙で政権を奪還した安倍総裁率いる自民党は公約で日銀法改正も視野に入れ、金融緩和を実施する旨を掲げていたのです。

 

セントラルバンカーとしての誇りを持ち、政府との妥協点を探りながら難しい政策運営を強いられる白川総裁の苦悩が生々しく描かれています。

 

黒田東彦」総裁の革新と漂流

一方で、新たな総裁となった黒田氏は安倍総理のタッグで異次元の緩和政策をためらいなく導入します。

 

黒田総裁期の財政・金融緩和で失業率・株価・為替は大幅に改善してきましたが、国際経済の停滞、消費増税などによる物価停滞への圧力を受け、物価上昇率の目標達成は常に距離がありました。

 

黒田総裁は次々と非伝統的な金融政策を打ち出していきますが、次第に緩和効果の減少・手詰まり感が顕になっていきます。

 

今となっては物価上昇率目標2%はほぼ形骸化し、日銀には金融緩和として切れる政策カードはほとんど残っていません。そして買い入れた大量の国債・有価証券ばかりが残される形となってしまったのです。

 

本書の重要なテーマ「中央銀行の独立性」について

ちょこっと解説すると、日銀は物価の安定を使命に掲げ日々の金融調節を行う機関です。

 

なぜ中央銀行の「独立性」が大事かというと、通貨の発行を担う中央銀行が政府の言いなりになって政府の国債を買わされるようなことがあると、世の中のお金の量が増加して物価が上がるインフレを起こしてしまう懸念があるからです。

 

物の価値(物価)はお金によって測られるため、世の中に出回るお金が増えると相対的にお金の価値が減少(物の価値が上昇)してインフレになります。インフレになると国民は生活必需品等を購入することが困難になり、ひいては経済に大きな悪影響を与えるわけですね。

 

同様の出来事としては第一次大戦後のドイツのハイパーインフレーションがよく例として挙げられます。そのような反省から現在、大半の先進国は法律で中央銀行の独立性を明記しています。

 

物価を安定させ国民生活を守るためにも、日銀は政府から独立した政策運営を行っていく必要があるわけですね!

 

【感想】

本書は専門書というよりも小説やドラマに近い読み口であり、経済の専門的な知識がなくても楽しめます(あったほうが楽しいと思いますが)。時の経済・政策イベントの中で当事者たちがどのような考え方をして決断したかを描いているので大河ドラマを観ているような感覚ですね

 

特に自分が学生だったときに起きたリーマン・ショック政権交代というビッグイベントの中で日銀がどんなプレッシャーに晒されながら金融政策を担ってきたのか。歴史の裏側を覗き見るような楽しさがあります。

 

白川総裁の章は本当に苦しい環境の中で、なんとか自分たちの独立性(聖域)を守ろうと四苦八苦する姿が本当に生々しく描かれています。

 

経済の専門家・政府・そして日銀内部にもプレッシャーを抱えながら政策運営を行ってきた白川総裁は世間の評価が低いような気がしますが、最終的に民意を汲み取り自身の進退を決めた様には政策に関わるものとしての一本筋のようなものと感じました

 

一方で、黒田総裁は白川総裁ができなかったことすべてやってのけたような印象があります。政策内容も「サプライズ効果」を重視したもので、華やかかつ革新的なものが多く、デフレ退治にむけてあらゆる政策を惜しみなく発揮していった様が見て取れました。

 

しかしながら、物価上昇の兆しが見えず、次第に手詰まり感と大量の購入した国債ばかりが残っていくようになります。

 

最終的に、政府が勝者となり日銀は政治と経済的成果どちらの面でも敗者となってしまったように思えます。安倍首相は政権奪取の際、日銀との物価上昇目標の共同声明にこぎつけ、日銀との政治的線引をあいまいにできたでしょうし、雇用・株価水準は大きく改善し、アベノミクスの成果としては十分でしょう。

 

日銀はその政策運営の独立性を脅かされ、実現困難な物価上昇目標のみが残されたように思えます。

 

 

【こんな人におすすめ】

大河ドラマ等が好きな人

 

これまで起きてきた出来事を日銀総裁という立場にスポットを当てて描いた物語なので興味のある時代の総裁に関して書かれた章だけを読んで楽しむのも良いです!

 

政府と日銀の関係性、日銀の聖域「独立性」について勉強したい人

 

もちろん専門的な勉強をしたい人にもおすすめです!

 

世の中がどのような流れで今の形になっているのか知りたい人

 

金融政策の国民経済に与える影響は絶大です!いまの政策のスタンスがどのような流れで今の形に落ち着いてのか知ることは未来を予測する上でも有用だと思います!

 

 

興味のある方ぜひ読んでみてください!感想への意見・ご指摘もお待ちしております!